駆け引き その3

「駆け引き」を辞書で調べると、

  商売や交渉、会議などで、相手の出方や状況に応じて自分に有利になるように処置すること
戦場で、時期を見計らって兵をすすめたり退いたりすること。

という事だそうです。

例えば、「あの人は、駆け引き上手な人だ」という言葉を聞いたとします。いろいろな場面が考えられるかもしれませんが、これに長けていてもあまりいい印象を持たないのは、私だけではないでしょう。




我々の仕事の中で、難産がらみのエマージェンシーは、その場で判断、その場で対処しなければならないものがほとんどです。今回の症例は、経腟での娩出は母体の怒責が弱く、軽度の捻転もあったことから産道が狭い比較的胎児が大きく、経腟での分娩はリスキーであることなどの状況から、畜主と話しあった結果、帝王切開を選択することを選択しました。今、このタイミングでオペを開始できれば胎児の生存はもちろん、母体の消耗も少なく、次の産次での繁殖もかなりの確率で受胎まで持っていけるのではないかとの予想からです。

最初の診断で子宮捻転の整復を試みているところでは、頭部と前肢の確保までの間、押したり引いたり捻じったりのせめぎあいの「駆け引き」がありました。しかし、その後は、畜主との「駆け引き」をすることもなくすんなりと手術を行う事が出来たのは、ありがたい事でした。(実は、こちらの「駆け引き」の方が厄介な事が多いのです・・・)

この母体は、手術後の回復も順調で、ピークで50kg弱の乳量を泌乳し、よく稼いでくれています。子牛も無事、スモール市場で高額販売されました。

「駆け引き」がうまくいかなくても、結果は大成功の症例でした。めでたし。