あと1センチ・・・


今日、シャンプーをしていたら掌に筋肉痛の様な痛みがあった。何でだろうと考えていたのだが、一昨日に難産があったことを思い出した。そう言えば両腕もかすかに痛い。

頭部が産道には入れないまま前肢を助産器で牽引されたので頭部が完全に真後ろを向いた状態であった。肩まで、あるいは首の付け根まで母体の産道に腕を挿入し、胎児の頭部を探ったが、下額骨にやっと中指が触れるものの、指を掛けることがどうしても出来ない。

部下の田波先生と代わる代わりに整復を試みるが、あと1センチ足りない。私よりリーチの長い田波先生も気管を指でつまみ揺さぶりながら引き寄せようとするが整復には至らない。

40分経過後に帝王切開に踏み切ったが、私の両腕は感覚を失うぐらいパンパンになってしまっていた。「ここで決める」と全力で下額骨を弄っていて、かなり判断時期を見誤ったと言える。

立位で右側からのアプローチ。無事胎児も生存していた。(ホルスタインのメス!やったー!)子宮の縫合、閉腹を田波先生が行う。正確にこなしてくれた。
実は、私の腕がだるくてかなわないため、お願いしたわけだが、整復困難であると判断するのには10分で可能だったのかもしれない。

今回は、胎児も生存していて、母体の立ち上がりも順調のようで何よりであった。しかし、整復困難であると判断をするまでに時間がかかり過ぎた。臨床現場では、常に冷静かつ的確な判断と処置が、命や、農家の生産性を左右することを肝に銘じていこう。
年末から今回まで、思えば4頭の帝王切開を行った。続くときは続くものだ。

新年







2009年元旦の朝は、午前6時に産後起立不能の急患で幕を開けた。

血中CA値なんと2.6mg/dl。

ボロカールを2本静脈内に、ニューグロンを1本皮下に入れ、午後に再度往診をする。

カルシウム値は8.9mg/dl。もう一本ボロカール追加で静注する。


大晦日の深夜に頭部の失位を畜主自らが整復し、分娩させたとのこと。畜主の方も正月だからと気を遣ってくれたのはありがたいのだが・・・。

実はこの牛は、定期検診で、外見上過肥であり、血中コレステロール値も下降傾向であったため、要注意であると指摘していた。食欲が落ちていたわけでは無いので、TMRの増給をしたほうがよいと畜主に伝えていた。タイストールの飼養形態なのだが、分娩前後の個体管理をきめ細やかにやろうとする意識が畜主にはまだない。問題を提起すると、いろいろな理由を持ち出して言い訳をするのだけれど、残念なことに、結果はこのような形で自らに降りかかってくる・・・。今年の課題としよう。


もちろん、検診時の血液検査の結果をよく理解し、個体管理に反映させて下さる畜主もいる。おのずと、分娩時の安定度は高い。
この牛はその後、幸いにも自力で起立できた。しかし、その後の周産期疾病の発生リスクは高く、繁殖成績への影響もあるだろう。


一日、二日と平常診療をし、私は三日の午後から五日まで正月休みをもらい家族の待つ家内の実家福島県須賀川市へ。


写真は、三日の午前中に移植に行った酪農振興センターの風景。忙しかったが、雪も少なく、穏やかな正月であった。今年も一年良い年でありますように。